仙人草の咲く庭で

犬と一緒に散策する里山スケッチ。自然界のさまざまな存在や、見えない世界へと誘われる心のスケッチ、モノローグ

Orr Hot Spring

水への旅 2

遠い昔、カリフォルニアに住んでいた頃のこと。

その当時、一番上の娘がようやく1才半を過ぎたくらいで

私たちは家族というよりは家なき子

旅人、放浪者・・・そんな言葉の方が似合っていた。

日本と違って、負担なくアパートやフラットを借りられるし、

共同生活をしながら、それぞれの事情で

引越しは日常茶飯事といった時代。

車で好きな所に移動しながら暮らしていた時のこと。

ある時、カリフォリニアのとんでもない山の中にある

Orr Hot Springという温泉に行ってみた。

そこは日本人の感覚からすると温泉?というクエスチョン・マーク

付いてしまうような場所で、

今となっては小さなバスタブが並んでいたことと、そこに咲いていた

温泉らしからぬケシの花の妖しげな雰囲気だけが記憶に残っている。

それよりも何よりも、私にとって Orr Hot Springの鮮烈な思い出は、

テントを張っていた森の中で体験した新月の夜の真の闇。

夜、小さなバスタブの温泉にゆっくりと浸かって、

テントを張っていた林の中に入った途端、

何も見えず四つん這いになって手探りで、

やっとのことでテントにたどり着くことができた。

経験がなく思いもよらずそんな事態に陥り、方向感覚も失って

本当に見えないという状態に心底驚いた。

おびただしい数の星がまたたく星空の圧倒的な美しさ、そして闇。

それは私の人生を縁取る鮮烈な記憶として刻まれることとなった。

翌朝、薄暗い林の中を流れるせせらぎでは、

せせらぎのすぐ上の植物の茎に

ヤゴから孵ったばかりの、まだ羽も濡れていると思われる幼いトンボが

抜け出してきたばかりの殻につかまってじっとしていた。

流れの中では、小さな亀が音も無くくるくるとたゆたい、

世界は止まってしまったようだった。

静かな静かな時間が流れていた

「永遠の時」のピンナップ。